外来を受診される患者によく質問されます。
「先生、酒は少しくらい飲んだ方が体にいいんだろ?妻にも言ってやってよ」
確かに、2018年のLancetに掲載されたメタ解析の結果からは100g/週のアルコール摂取は全死亡率を上げない可能性が示唆されました[1]。
しかし、同年に発表された別のLancetに掲載されたメタ解析の結果では、アルコールは全く飲まないのが、最も健康であると結論が出されています[2]
参考 Light to moderate amount of lifetime alcohol consumption and risk of cancer in Japan.acsjournals.onlinelibrary.wiley.com今回はCancerから2020年3月にPublishされた日本のデータベースを用いた研究を見てみます。
背景:Background
・ASCOの発表では癌の5%はアルコールに起因する。
・上気道・消化管癌の50%、大腸癌の16%、乳癌の16%、肝癌の13%がアルコール関連の癌であると報告されている。
・日本人はアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の多形が多く、アルコール代謝に時間がかかる。
・日本人での少量から中等量のアルコール消費とがんの関連はわかっていない。
方法:Methods
デザイン
Case-Control study(症例対象研究)
対象
・Inpatient Clinico-Occupational Database of Hosai Hospital Group (ICOD-R)というデータベースから抽出
・初発のがんの診断のついた患者(Case) 63,232人とコントロール 63,232人
解析
・性別・年齢・入院日・病院でマッチさせた条件付きロジスティック回帰
・Restricted cubic spline method(制限三次スプライン法)
結果:Results
・生来飲酒経験のない人と比較して、飲酒経験のある人では上気道・消化管だけでなく、大腸や直腸、前立腺癌でも罹患リスクの上昇が認められた
・特に食道癌ではOR4.26 (3.22, 5.64)と顕著であった
・各年齢でのアルコール暴露の影響を見た結果でも、全年齢で少量のアルコル暴露であったとしても発癌リスクになる
結論:Conclusion
がんの予防という観点ではアルコールは飲まないことでリスクを低減できる