腸閉塞 Short Bowel Obstruction

腸閉塞は腹痛の中でも診断が難しい病気のひとつです。
日本では国家試験をうける時から、単純性腸閉塞・複雑性腸閉塞・麻痺性……
などの非常に分かりにくい分類がされています。

それが原因で、腸が張っているものをすべてまとめて”イレウス”という言葉で片付けてしまうようになってしまうのだと思っています。

腸閉塞はその概念と分類をしっかりすることで、理解が格段にあがります。

 

話は少し変わりますが、腹痛の診断学で有名本をひとつあげろと言われれば、この本”Cope’s early diagnosis of the acute abdomen”です。

最近のエビデンスに基づいた…..の類のものではないので、本当にそうか?というものも含まれていますが、疾患イメージをつかむのには非常に適しています。

今では日本語訳もでているので、時間に余裕のある方はぜひ読んでみることを勧めします。

それでは腸閉塞の話をしていきます。

腸閉塞とイレウス

まず、最初に大切なことは腸”閉塞というからには詰まっていないといけません。
当たり前だという方もいるかもしれませんが、一度整理しておきます。

一般に

腸閉塞:ココ!という閉塞している部分がある

イレウス:閉塞している場所はないが、腸が拡張している(麻痺している)

先に挙げた麻痺性腸閉塞なんていうのは、なんのことだかさっぱりわかりません。
イレウスは基本的には手術後や腹腔内の炎症のために腸が麻痺して動きが悪くなっている状態だと理解してください。

ですので、ここで扱うのは腸閉塞ですので、閉塞している場所があるものだと理解してください。

腸閉塞を3つの観点で分ける

さて本題に入りますが、何事も分解してわけていくと理解が深まります。
単に腸閉塞といった場合には小腸閉塞を意味することが一般的なので、ここでは基本的には小腸閉塞をイメージしてください。

この3つの観点をもって、これからの内容を考えみてください。

腸閉塞の症状とあげてくださいと言われると、自分が見たことのある、もしくは本で見たことのある、以下のようなものを考える人が多いのではないでしょうか。

・腹痛 ・腹部膨満
・嘔吐 ・腹部圧痛
・排便停止 ・腸蠕動亢進
・排ガス停止 ・ショック

それぞれの症状が3つの観点をどのように関連するのかみてみます。

腹痛

過去の記事でも書きましたが、腹痛を理解する上で性状(間欠痛か持続痛)が特に大切になります。


ここでいう間欠痛とは痛みが完全になくなくタイミングがあることを意味するのでした。
間欠痛であれば、痛みの原因は腸蠕動(腸がうごくこと)による痛みであると理解できます。
その場合、閉塞している’部位’によって持続時間が異なります。

一般に上部(口に近い)部位での閉塞の方が痛みの持続時間も痛みがない時間も短く4−5分程度とされています。
また遠位(肛門側)にいくほどに、時間は長く15分程度にもなるとされています。大腸も蠕動運動しますが(排便しますよね)、数時間に一回程度をされており、閉塞した場合には短くても数十分に一度といった感覚の痛みになります。

持続である場合は、虚血や腹腔内の炎症があることを示唆します。
腸閉塞の場合には絞扼性(strangulated)を疑う所見になり、緊急手術が必要になることを意味します。

ここで少し寄り道をします。腸の状態を表す言葉に”絞扼”(コウヤク)や”嵌頓”(カントン)といった言葉があり、意味がよくわからないという方もおられるのではないでしょうか。
以下のように理解してください。

絞扼(コウヤク):腸への血流が悪くなっている状態

嵌頓(カントン):どこかに腸がはまり込んで抜けない状態

嵌頓している場合に絞扼していることはよくありますが、嵌頓していても絞扼していないということもあります。
必ず緊急で解除が必要になるのは‘絞扼’している時です。
絞扼の有無で緊急手術の必要性を判断します。

嘔吐

吐物内容から閉塞’部位’の推定ができます。

痛みの続く時間の問診と合わせて、吐物の色も聞くようにしてみましょう。

 

排便・排ガス停止

ガス(おなら)が出ているから腸閉塞ではないと言いたいところですが、必ずしもそうとは言えません。

基本的には、”亜腸閉塞”のような中途半端な診断はつけることはあまりお勧めします。
ガスがある程度出ていてお腹が痛いのなら、他の疾患がないかと考える方がより重要です。

 

腹部膨隆

小腸閉塞で腹部の膨隆が見られることは少ないとされています。
膨隆が著明な時には、むしろ大腸閉塞を疑う必要があります。

腹部圧痛


さてここまで、見てきましたが、逆に何を覚えればいいんだと心配になってしまった方もいるのではないでしょうか。

ここまでが症状から中心にしてみてきましたが、次に症状からアプローチしてみましょう。

もう一度3つの観点を見てみましょう。

の3つでした。

部位でわける

パターン①

激しい嘔吐、緑色嘔吐、腹部は平坦、短時間に繰り返す腹痛

これは上部小腸の閉塞を示唆します。
嘔吐も多いので、絞扼はあまりなさそうでしょう

パターン②

糞便に近い嘔吐、腹部は膨満、7−10分間隔の腹痛

これは腹部も膨満していて、嘔吐の性状も糞便に近いので、下部小腸の閉塞を疑います。
腹痛の間隔がやや長めなのも大事な病歴です。

パターン③

嘔吐はない、腹部は膨満、腹痛ははっきりしない、数ヶ月間の下痢

最後のこちらは小腸閉塞としては非典型的で、大腸閉塞を疑います。
腹部の膨満や嘔吐がないこと、また数ヶ月間の下痢は大腸がんを疑う病歴です。

閉塞の仕方でわける

①single obstruction ②closed obstruction ③malignant obstructionとわけると考えやすいと思います。
言葉で説明するよりも図の方が理解しやすいと思います。

① single obstruction

一箇所だけで詰まっており、癒着によるものがほとんどです。痛みも間欠痛になることが多いです。

 

②closed loop obstruction

こちらはループが閉じてしまっており、絞扼に至る危険性があります。受診時には絞扼所見がなくても、早期手術の適応になります。

③malignant obstruction

その名の通り、malignant(悪性)の閉塞で、がんの腹膜播種などで様々なところに狭窄ができてしまいます。しかし、完全な閉塞に至るまでは時間がかかることが多いです。

 

絞扼の有無でわける

最後に、腸閉塞の診断で何より大事なことは絞扼を見逃さないことです。
そこで絞扼を疑う病歴を挙げてみました。

これらの所見がいくつかそろっている時には、絞扼を疑う必要があります。
残念ながら、なんとかスコアみたいなものはないので、疑ってかかることが重要です。

 

腸閉塞について、様々な角度から見てきました。
もちろんCTなどの画像所見と合わせて判断する必要があり、問診にあまりに時間をかけすぎて診断が遅れてしまうなんてことはあってはいけません。

これらの内容を意識しながら、取り組むことが大事なのです。

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