査読のポイント①

査読は人の為ならず

査読は自分の執筆能力をあげるための勉強だと思って引き受けています。
査読依頼のメールが来て、承諾すると論文へのアクセスが可能になります。
実際に査読をしていく上での注意点や査読コメントの書き方を以下のScienceのオンラインコースを参考に見ていきます。

参考 Focus on Peer Review online course — free coursemasterclasses.nature.com

査読しない人でも、査読のポイントを知っておくと自分が論文を書く際に注意すべきポイントがわかるため、論文を書いている人もこれから書く人もぜひマスターしていただきたい内容です。

査読のプロセスや査読依頼を引き受ける前に考えるべきことについては、こちらの記事もご参照ください。

論文の査読依頼のメールが届いたら?

査読開始前に確認しておくこと

雑誌から期待されていることは?

新規性に対しるコメントをすることか?テクニカルな側面の正確性のチェッックか?

アクセプトするかどうかの判断を求められているか?
査読のタイプはどんなタイプか?

種類によっては、査読コメントは論文の一部をして一緒にPublishされることになる。

査読者は公開されるか?

一部の雑誌では、査読者が同意した場合には査読者が誰なのかが公開される。

期待されている役割は?

著者へのアドバイス?編集者のコンサルタント?


私の経験の中では、何をしてほしいか明確には書かれていないことがほとんでした。
Publishの推奨レベルを求められることは多く、Accpet, Major revision, Minor revision, Rejectをいったざっくりと分けた雑誌やもう少し細かく推奨レベルを分けたものもあります。
査読の内容が公開されるものの依頼を受けたことはありませんが、「査読者として公開してもよいか?」という質問が査読の際に受けることはありました。
統計家など一部の専門家では、特殊な形での査読を依頼されるのかもしれませんが、基本的に「論文をよくするためにはどうすればよいか?」という視点です。

査読の手順

決まった手順はないと思いますが、オンラインコースで紹介されていた方法を一例として紹介します。納得できますし、大まかには私もこのような手順で行っています。

手順1
最初から最後まで読んでみる
中身1
手順2
数日置いておく
手順3
細部まで読み込む①
内容を吟味する
手順4
細部まで読み込む②
論理性や構造などの可読性を吟味する
手順5
まとめる

最初に論文に目を通す際に考えるべきポイントがまとめられています。

  • 明確で重要なリサーチクエッションがあるか?
  • リサーチクエッションはその研究によって解明されているか?
  • データに基づいた主張となっているか?
  • 研究の新規性はジャーナルのレベルに合っているか?
  • この研究に興味を示す読者はどういった人々か?
  • 研究デザインは適切か?
  • 研究デザインに重大な欠陥はないか?
  • 論文には技術的に厳密か?

セクション毎の査読ポイント

Title, Abstract, Introduction, Methods, Results & Discussionのそれぞれの査読ポイントについて見ていきます。

Title

キャッチーなものするために不明瞭なタイトルになることは避けるべきです。明瞭かつ短いということがタイトルでは重要です。

  • 報告内容を表しているか?
  • 読者の興味を引くか?
  • メインの結果と最も新規性のある所見を表しているか?
  • 不要な誇張はないか?

タイトルに結果を含めろという意見とタイトルには結果は含めてはいけないという意見を両方とも聞いたことがあります。実際にPublishされている論文にはどちらも存在しますし、好みも問題もあるのではないでしょうか。

Abstract

研究の全体像がわかるように書く必要があります。
研究が行われた経緯・使った研究手法・結果の要約・示唆されること、などを記載する必要があります。

  • なぜその研究が行われたのか?(The aim of …., The reason for A is unknown…)
  • 何を行ったのか?(We extracted data on …., analyzed patients….)
  • どのような手法を用いて行ったのか?(We used propensity… method…)
  • どんな結果が得られたのか?(Mortality is lower in A compared with B…)
  • 得られた結果は何を意味するのか?(A is more recommended than B….)

書き方はそれぞれだと思いますが、自分が書いている際にも意識していることがそのままチェックリストに挙げられていました。

Introduction

 私自身も書くのがもっとも苦手なパートです。
Introductionには関連のある最近の研究を中心に説明することが必要で、研究分野の網羅的なことを書くことはあまり勧められません。おそらく雑誌の読者層によって変えなければならない部分だとは思います。専門誌であれば基本的な知識や疾患背景などは省かれますが、BMJやNEJMなどでは読者の背景知識にばらつきがあるので、基本的なことも記載してくれているように思います。

  • 読者層が理解できるように書かれているか?
  • 最近の研究が正確に記述され、引用されているか?それらの研究の限界や議論のある点、わかっていないことなどが明確になっているか?
  • なぜこの研究が必要か説明されているか?
  • 現状を説明するのに十分な研究が引用されているか?偏った引用になっていないか?

Methods

ここでは研究が方法論的に全うであるかどうかを確認し、そうでない場合は著者が論文を改善するためのアドバイスをする。

  • 方法論は十分詳しく説明されているか?
  • 適切な対照群が設定されているか?
  • アウトカムは定義されているか?
  • 妥当性の検証された道具(アンケートやスコアなど)や手法を使っているか?
  • 試験状況に問題はないか?
  • 研究対象は同定されているか?
  • 統計は正確か?不確実な点は適切に報告されているか?
  • 再現性が保たれた研究か?
  • 研究はバイアスがない状況で客観的に行われているか?
  • 倫理規範に則って行われているか?

研究手法に問題がある場合には、どのようなデザインが適切なのかを理由をつけて提示する。研究手法が理解できない場合にはその胸をEditorに報告するべきです。

研究手法は複雑化しており、詳細までわからないことも多いと思います。知ったかぶりで意見することほど迷惑なことはないと思います。
分からないことは正直にEditorに報告するようにします。私自身もmethodがよく分からない場合にはEditorへのコメントにその旨を書いています。

Results

結果がデータに基づいて、正しく記載されているかを確認します。著者の主張に合うように操作されていてはいけません。
本文と図やTableを確認する必要があります。

  • 図やTableはそれだけで理解できるように作られているか?
  • データはわかりやすく正確に記載されているか?
  • デザインや手法を考慮して、結果は妥当か?
  • 結果は論文の主張している内容をサポートするか?
  • 主張と結果が異なる場合、Discussionで理由が説明されているか?

Discussion

ここは明らかにされた知見をもとに、提起された研究課題に答えるものであるべきです。他の関係する研究を引用して、議論することが必要で、ここまでに出てきていない新たな内容を提示することはさけるべきです。

  • 結論は研究の目的を一致しているか?
  • 結論はリサーチクエッションに答えているか?
  • 結論は提示された得られた知見に基づいているか?結果の別の解釈はできないか?
  • 研究から示唆されることを明確に説明しているか?
  • 得られた研究結果を過去の研究と関連づけて議論しているか?
最後に
今回は各セクションの査読ポイントの一例をScience誌のオンラインコースを参考にまとめてみました。論文を書く際の参考にもなると思いますので、興味のある方はオンラインコースを受けてみてください。2020年5月8日時点では無料です