【読書感想】あなたの臨床研究応援します

臨床医で研究をしてみたいと思っている方がまず読むべき本だと思います。
良書です。難しすぎず、かといって簡単すぎて役に立たないということもありません。まったく統計を勉強したことがないという方は一回通読してもまだわからないとこともあると思いますが、研究デザインを考える上で必要な知識が詰まっていると思います。何度か読み直すことで理解も深まるのではないでしょうか。

大阪市立大学の新谷歩先生の著書です。

1章 間違いだらけの臨床研究デザイン

1.1 単群比較ににご注意

全員に介入する単群試験は、患者への侵襲が大きい割に比較対象がないために科学性に欠けた結果しか得られないことが多いため、避けるべきである。ヒストリカルデータとの比較はデータ取得の背景が異なるため、比較群としては適切ではない。

介入研究・観察研究に関わらず、比較対照群を設けることが科学性を担保するために必要となる。介入研究の場合には無作為化・盲検化によって内的妥当性を高める努力が必要である。また、従来の介入試験で問題になることの多かった外的妥当性を高めるためにプラグマティック試験(pRCT)として、組み入れ基準を緩く設定して、Real worldに近い状態で行われることもある。

単群試験を行うよりも、サンプルサイズが足りていなくてもパイロット試験としての比較試験を行う方が次のステップに繋がる。

とはいうものの、ヒストリカルデータが常に使用してはいけないというわけではなく、Rare diseaseではヒストリカルデータを背景の調節を行うことで比較対象として使用することもある。

1.2 前後比較の落とし穴

前後比較では治療効果の判定はできないが、回避する方法として「投薬コホート研究にする」「クロスオーバー試験にする」「長期トレンドを調べる」が挙げられ、これらによって科学性の担保が可能になる場合もある。

1.3 臨床研究の作法

最初から無作為化・盲検化・介入研究などに取り組むのではなく、自分のできる研究の科学性を高める努力をすることが重要だ。

臨床研究は大きく介入研究と観察研究に分類される。また侵襲を伴うか伴わないかといった分類もあるが、「介入研究=侵襲あり」「観察研究=侵襲なし」ではない。「介入」は治療の割付が行われる場合をいう。侵襲はたとえ観察研究でも研究のために日常診療を超えた検査などが必要な場合は「侵襲あり」になる。

オプトインで同意を取得する場合には、研究参加意志のある人にのみが研究に参加する。オプトアウトの場合には研究に参加したくない意志表示がない限りは研究に参加する。そのため、同意の取り方によって参加する患者の背景や研究参加意志が異なっている。

2章 観察研究のトリセツ

2.1 観察研究のポテンシャル

比較対象の存在する観察研究は、比較対象のない介入研究と比較すると科学性は高い。

臨床研究法での特定臨床研究の適応は医薬品などの介入が行われている場合であり、観察研究で侵襲を伴わない・軽微な侵襲にあたるものは適応外である。しかし観察研究でも、侵襲性のあるもの適用となる場合がある。臨床研究法の適用となる研究を行うには様々な制約がある。

優良なエビデンス作成のためには⑴研究内の比較対象 ⑵無作為化 ⑶前向きであることが重要であるが、これらがないとエビデンスが低いわけではない。できること、できないことを理解した上での観察研究も重要である。

2.2 治療効果

背景の揃っていない比較対象群を用いた場合には交絡の調整を行う必要がある。

交絡とは
①アウトカムに対して因果関係をもつ
②研究対象因子である暴露因子と相関関係にある
③暴露因子とアウトカムの中間因子ではない
これらの条件が成り立つ因子のことである。

交絡を取り除く方法としてはサブグループ解析と多変量解析がある。
回帰モデルの選択はアウトカムとクラスターを考慮するか否かによって、線形回帰、混合効果モデル・GEE、コックス比例ハザードモデル、ロジスティック回帰モデル、順序ロジスティック回帰、名義ロジスティク回帰の中から適切なモデルを用いる。

2.3 リスク因子の解析

回帰分析に入れる因子は単変量解析で有意差の出たものといった選び方は適切ではない。回帰分析に入れられる因子の数は回帰モデルによって異なる。

線形回帰なら総症例数➗15まで
ロジスティック回帰ならイベントあり(なし)➗10
コックス比例ハザード回帰ならイベントあり➗10
が一般的である。

回帰分析に組み込む因子は臨床的にアウトカムに因果関係を持っているかどうかで決定する。多重共線性の問題によって回帰モデルが適切でなくなる場合があるため、共線性を意識することが重要。

因果パスウェイ上にある因子を入れてしまうことでオーバーアジャストメントが起こることがある。入れる因子に正解はないが、十分に考慮することが必要。

回帰式の再現性の確認作業を Validationという。External validationは通常データがないために行うことが難しい。そのため、Internal validationとしてクロスバリデーションやブートストラップ法が行われる。

患者の背景によって治療などの効果が異なることをEffect modificationという。Effect modificationの有無はサブグループ解析の片方で有意、もう片方で有意でない結果が出たからといっても証明できない。回帰式に交差項をいれて計算することで、その係数から判断する。

3章 観察研究における効果的なデータ解析

回帰式に入れたい因子に比して、症例が少ないときは最低限必要な因子のみを補正するといった方法がある。中間因子を入れてしまうと正しい結果が得られなくなる。

非線形解析のひとつにRestricted cubic splineがある。

欠損値がある場合には多重代入法による補完がNEJMでも推奨されている。欠損が多いと、信頼区間が大きくなり、有意差がなくなる傾向にあるが、Complete サンプルのみを用いるサンプリングバイアスを防ぐためにも必要である。

不死身バイアス(Immortal time bias)の存在による薬剤の効果が過大評価され報告されている例がある。見抜くのは難しい。

患者をベッド再度で連日観察することで得られるリピートデータを用いることで統計的検出力の高いデータを得ることができる。ベッド再度での観察は重要である。


読む価値あります。非常にわかりやすくまとめてくれていると思います。