【ナース向け】虫垂炎術後の看護で注意は?

虫垂炎は数は多いですが、「軽い病気」と思われがちなため、術後の看護や患者の退院後の生活が軽視されているかもしれません。
患者にとっては一大事ですので、術後看護で注意すべき点をまとめてみました。
 

穿孔していない虫垂炎術後

最近では腹腔鏡下で虫垂切除されるケースがほとんどではないかと思います。
腹腔鏡手術の場合は1−3個の孔(ポート痕)があります。
小さなキズに見えますが、臍のキズは痛みます。
ちなみに私がする場合は以下のように臍12mm、恥骨上5mm、左下腹部5mmです。
食事も麻酔が覚醒すれば食べられます。術後の入院期間も1−2日と短いので、入院中に注意することって?と思うかもしれません。
 

抗生剤

術後の抗生剤の投与は一般的に推奨されていません。
術直前に一回分の抗生剤を投与しておしまいです。
 

合併症

穿孔していない虫垂炎では手術後には腹痛はよくなりますし、高熱が出ることも稀です。術翌日に高熱と強い右下の腹痛を訴えている場合には、処理した虫垂断端からのリーク(漏れ)を疑う必要があります。このようなことは滅多に起こりませんが、注意すべき点があるとすればここでしょう。
 
穿孔していない虫垂炎の合併症は退院後に起こります。キズの感染や腹腔内膿瘍は〜5%程度の患者で起こるとされますが、多くが初回外来で指摘されます。
 

穿孔している虫垂炎の術後

こちらも腹腔鏡下で虫垂切除されるケースがほとんどではないかと思います。
キズも基本的には”穿孔していない虫垂炎”と変わりません。

ドレーン

もしかすると、こちらの場合にはドレーンが留置されて帰ってくるケースがあるかもしれません。「ドレーン留置によって膿瘍形成を予防しよう」という意図があるのかもしれません。残念ながら、ドレーン留置によるメリットは今のところ証明されていません。ですので、抜去するタイミングにもあまり決まりはありません。
 

抗生剤

”穿孔していない虫垂炎”との一番の違いは術後に抗生剤が投与されることです。穿孔している虫垂に対しては”経験的に”3−5日間の抗生剤が投与されます。
 
察しの良い方は気づかれたかもしれませんが、この抗生剤にも術後の腹腔内膿瘍形成を予防する効果は証明されていませんので、近年になって術後の投与期間は徐々に短くなってきています。
 

合併症

イレウス
”穿孔している虫垂炎”では炎症が広範囲になっていることもあり、術後イレウス(腸が麻痺して動かない)になることがあります。イレウスになると嘔吐することもあり、高齢者では誤嚥する可能性があるため注意が必要です。術後に腹部の張りが強い患者では注意します。
 
 
膿瘍
膿瘍形成は”穿孔していない虫垂炎”よりも高い確率で起こります。〜10%程度との報告が多く見られますが、予防する方法としては術前の抗生剤投与をきちんとしておくくらいです。
膿瘍が形成されるのは術後5日目以降がほとんどです。術後1日目に膿瘍というのは起こり得ません。膿瘍には中身(膿)とカプセル(隔壁)が必要ですが、隔壁はそんなに早くできないからです。
 
膿瘍治療の原則はドレナージです。皮膚表面からだったり、直腸からだったりと方法はいくつかありますが、膿を外に出してやることが一番大事です。
抗生剤の投与はあくまで”補助的”な治療ですので、ドレナージしていない患者では刺す方法や経路がない場合か、膿瘍がとても小さい場合など、刺せない理由がある時です。
 
 

退院時に注意すること

穿孔しているしていないにかかわらず、退院時に注意することはキズに関することです。感染ともう一つが”瘢痕(はんこん)ヘルニアです。腹腔鏡の小さなキズでもヘルニアになることがあります。ヘルニアが明らかになるのは術後12−18ヶ月経ってからですが、ヘルニア形成の有無には術後1ヶ月が最も重要と考えられています。
術後に患者にできる予防方法で証明されたものはありませんが、これらの理由から術後1ヶ月程度は腹圧のかかる運動はさけてもらっています。
 
虫垂炎は最もよくある外科手術のひとつです。術後の看護の参考になればと思います。